のこぎり音楽について

のこぎり音楽とは、文字通りノコギリで奏でる音楽を指します。日本のノコギリは弾きにくいのですが、海外ののこぎり、いわゆる片刃で持ち手がついているものはたいてい鳴らすことができます。
わたしの下手な説明よりも、とりあえず事典に頼ってみましょう。

musical saw(英)
lame musicale(仏)
singende Sage(独)

19世紀半ばから使われ始めた民族楽器。ミュージカル・ホールやヴォードヴィルで、もの珍しさがもてはやされた。長くよくしなる手引鋸の背の部分をヴァイオリンなどの弓で弾いたり、軟らかいマレット(鎚)で刃をたたいて演奏する。奏者は腰を掛けて脚を組み、のこぎりの柄の部分を両膝かももの間にしっかりと挟む。一方の手でのこぎりの先端をつかみ、刃のたわみの度合いによって振動数を変化させて任意の音高を得る。ヴィブラートは手でも、あるいは脚を震わせることでも、奏することができる。1920年代にはことさら長いもの(最大81cm、3オクターブの音域を持つものもあった)が特に楽器として製造された。しかし大工用ののこぎりを適当に選んで利用することもなくなったわけではない。
アメリカでは少なくとも7つの型のミュージカル・ソーが、イギリスとドイツではそれぞれ2つの型が、またスウェーデンでも1種類が販売されてきた。ポルタメントが十分表現できるこの楽器の特性は、アンリ・ソゲのミュージカル・ソーとピアノのための<嘆き Plainte>(1949)のなかで巧みに生かされている。
 なお、ホルンボステルとザックスの楽器の分類によると、ミュージカル・ソーは擦奏体鳴楽器に属する。

「The New GROVE Dictionary of Music and Musicians」より抜粋